どういうわけか必ず整数係数になる多項式

★この記事は、 Math Advent Calendar 2018 - Adventar  15日目の記事です。

 

 Advent Calendarというものの存在を最近知りまして、せっかくだから参加してみようと思い急遽最近ハマっている数学の記事を作ってみた所存です。高校数学でわかる平易な内容にしておりますので、息抜き気分で読んでいただけるとありがたいです。テーマは、どういうわけか必ず整数係数になる不思議な多項式:円分多項式です。

 

0.円分多項式

 円分多項式というものを定義してみます。

 自然数nに対して、円分多項式とは、n以下でnと互いに素なすべての自然数kに対し

 (x - (cos \frac{2\pi k}{n}+isin\frac{2\pi k}{n}))

 をすべて掛け合わせたものです。自然数nに対する円分多項式\Phi_n(x) で定義します。それから

 \zeta_n(k)=cos \frac{2\pi k}{n}+isin\frac{2\pi k}{n}

 としておきます。(要するに、1のn乗根のうち偏角が(360k/n)°のやつですね)物は試しということで、n=1~4ぐらいまでやってみましょう。

 \Phi_1(x)=x - \zeta_1(1)=x - 1

 \Phi_2(x)=x - \zeta_2(1)=x+1

 \Phi_3(x)=(x - \zeta_3(1))(x - \zeta_3(2))=(x - (cos\frac{2\pi}{3}+isin\frac{2\pi}{3}))(x - (cos\frac{4\pi}{3}+isin\frac{4\pi}{3}))=x^2+x+1

 \Phi_4(x)=(x - \zeta_4(1))(x - \zeta_4(3))=(x-(cos\frac{\pi}{2}+isin\frac{\pi}{2}))(x-(cos\frac{3\pi}{2}+isin\frac{3\pi}{2}))=x^2+1

 なんだか、最右辺に整数係数しか出てこないですね。まさか、と思ったかもしれません。そのまさかは正しいです。円分多項式は任意の整数nについて整数係数になります。\zeta_n(k)は整数どころか実数でもないこともありますし、「nとkが互いに素になるような項だけを選んで掛ける」という不思議なつくり方をしているのに、どういうわけか展開すると整数係数になってしまいます。

 この不思議な定理を証明していくのが目標です。

  流れとしては、

  • \zeta_n(k)の組分け」を考える。
  •  \Phi_n(x)をm<nにおける \Phi_m(x)で表す。
  • 多項式の定理を補助的に使いながら、帰納法で証明。

 という感じです。「なんのこっちゃ」と思うかもしれませんが、読み終わった後にこの流れの意味がわかるかと思います。

 

1.\zeta_n(k)たちの組分け

 唐突ですが、\frac{2\pi k}{12}を並べたものをある規則に沿って組分けしてみます。まず書き並べましょう。

 2\pi\times\frac{1}{12},2\pi\times\frac{2}{12},2\pi\times\frac{3}{12},2\pi\times\frac{4}{12},2\pi\times\frac{5}{12},2\pi\times\frac{6}{12},2\pi\times\frac{7}{12},2\pi\times\frac{8}{12},2\pi\times\frac{9}{12},2\pi\times\frac{10}{12},2\pi\times\frac{11}{12},2\pi\times\frac{12}{12}

 これを全部約分しましょう。(2πは残します)

 2\pi\times\frac{1}{12},2\pi\times\frac{1}{6},2\pi\times\frac{1}{4},2\pi\times\frac{1}{3},2\pi\times\frac{5}{12},2\pi\times\frac{1}{2},2\pi\times\frac{7}{12},2\pi\times\frac{2}{3},2\pi\times\frac{3}{4},2\pi\times\frac{5}{6},2\pi\times\frac{11}{12},2\pi\times\frac{1}{1}

 わざとらしく並べ替えてみます。

 2\pi\times\frac{1}{12},2\pi\times\frac{5}{12},2\pi\times\frac{7}{12},2\pi\times\frac{11}{12},2\pi\times\frac{1}{6},2\pi\times\frac{5}{6},2\pi\times\frac{1}{4},2\pi\times\frac{3}{4},2\pi\times\frac{1}{3},2\pi\times\frac{2}{3},2\pi\times\frac{1}{2},2\pi\times\frac{1}{1}

 わざとらしく並べ替えました。考えると当たり前なんですが、結構面白いことが起きています。どういうことかというと、分母に来るのは12の約数だけで、分子には分母と互いに素な数がすべて表れています。つまり、12の約数mすべてについて、2\pi\times\frac{k}{m}(mとkは互いに素)で表せる分数がすべて現れています。この「互いに素なものを選ぶ」選び方は、円分多項式の定義と同じ選び方ですね。そこでこの並べ替えのように、\zeta_n(k)=cos \frac{2\pi k}{n}+isin\frac{2\pi k}{n}をグループ分けしてやることによって、

 x^n-1=\prod_{k=1}^n\zeta_n(k)=\prod_{k=1}^n (x - (cos \frac{2\pi k}{n}+isin\frac{2\pi k}{n})) 

 という多項式は、mをnの約数として、

 x^n-1=\prod_{m|n} \Phi_m(x) 

 とあらわせることが、ご了解いただけると思います。

 (x^n-1=\prod_{k=1}^nはk=1~nですべて掛け合わせるという意味です。\prod_{m|n}は、nの約数mすべてについて掛け合わせるという意味です。)

 

 ならば最後の式の両辺を\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x) (今度はnでないnの約数mすべてについて掛け合わせるという意味です)で割ってやることで、

  \Phi_n(x)=\frac{x^n-1}{\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x)} 

 となります。つまり、 \Phi_n(x)をn未満のmにおける \Phi_m(x)で表せました。なんとなく、帰納法の匂いがします。

 

 

多項式に関する定理

 つぎに多項式に関する、重要な補題を2つ紹介します。

 

補題1

 最高次の係数が1である整数係数多項式の因数fが有理数係数の多項式であれば、fは整数係数多項式である。

 少しわかりにくい定理ですが、「因数が有理数係数であれば」という点に注意です。たとえば、x^2-2=(x-\sqrt 2)(x+ \sqrt 2)となるので、有理数係数でないなら普通に整数でない係数が出てきます。

■証明

 ごめんなさい、(眠気が限界なのと)かなり複雑なので省略とさせていただきます。あと、毎度数学書に「証明は省略する」と書いてあって頭を痛めているので、自分も1回やってみたかったのです。ググると出ます。*1

 

補題2

 有理数係数の多項式f(x)有理数係数多項式g(x)多項式h(x)の積

 f(x)=g(x)h(x)

 で表せたならば、h(x)もまた有理数係数である。

 

 これは当たり前です。多項式の割り算f(x)÷g(x)を筆算で解くことを考えてみると、fもgも有理数係数のわけですから、有理数の四則演算の答えに無理数が出てくるわけがありません。このような考察をもとに証明が書けます。(些末な証明のわりにちょっとわかりにくいので、眠い方は飛ばしてください)

 

■証明

 gの次数をa,hの次数をbであらわす。h(x)有理数でない係数があったとして、対応する項をcx^k(cは有理数でない、0≦k≦b)とする。g(x)x^aの係数は必ず非零だから、その係数をq≠0(有理数)とすると、f(x)(a+k)次の係数は、

 cq+r(r:有理数

 で表せるはずである。f(x)有理数係数なので、cq+r有理数だからこれをsとおくと、結局

 c=\frac{s-r}{q}

 とあらわせ、左辺は有理数でない、右辺は有理数で矛盾。よってh(x)有理数でない係数は存在しない。■

 

Φn(x)が整数係数であることの証明

 ではいよいよ、 \Phi_n(x)が整数係数であることの証明です。概略を述べます。先ほど、

  \Phi_n(x)=\frac{x^n-1}{\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x)} 

 という式を導きましたから、n未満のすべての自然数mに対して \Phi_m(x)が整数係数であることを仮定すれば、先ほどの定理を使って \Phi_n(x)が整数係数であることを示せそうです。つまり数学的帰納法が使えます。(なお、少し考えてみると補題1だけだと論理的に怪しいことがわかります。そこで補題2が出るのです。)

 では証明です。

 

■定理

 すべての自然数nについて、 \Phi_n(x)は整数係数である。

■証明

 nに関する数学的帰納法で証明する。

・n=1のとき、 \Phi_1(x)=x-1であるからよい。

・m<nとなるすべての自然数mについて、 \Phi_m(x)が整数係数であると仮定する。このとき \Phi_n(x)も整数係数となることを示す。

 x^n-1=\prod_{m|n} \Phi_m(x) 

 とあらわせるから、 \Phi_n(x)x^n-1の因数である。さらに、 \Phi_n(x)有理数係数の因数であることを証明する。(そうでないと補題1が使えない!)いま、

  \Phi_n(x)=\frac{x^n-1}{\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x)} 

  x^n-1=\Phi_n(x)\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x) 

 とあらわせる。\prod_{m|n, m \neq n} \Phi_m(x)は、帰納法の仮定より整数係数、つまり有理数係数である。そこで補題2より、\Phi_n(x)有理数係数である。

 最後に、\Phi_n(x)が最高次の係数が1の整数係数多項式x^n-1有理数係数因数であることから、補題1を用いれば、\Phi_n(x)が整数係数であることが示された。■

 

 どうでしょうか。文章力不足でかなりグダってしまいましたが、もう一度証明の筋道を書き表しておきます。

  1. \zeta_n(k)の組分け」を考える。
  2. 組分けを利用し、 \Phi_n(x)とm<nにおける \Phi_m(x)の関係を表す。
  3. 多項式の定理を補助的に使いながら、帰納法で証明。

  \Phi_n(x)が整数係数であることの証明だけでも美しいですが、実は証明そのものよりも、

 x^n-1=\prod_{m|n} \Phi_m(x) 

 と、x^n-1を分解する構造のほうが興味深かったりします。まず、 \Phi_n(x)をこの式を用いて次々表せます。それから素数pについて、pの約数は1とpしかないですから、

 x^p-1=\Phi_1(x)\Phi_p(x)=(x-1)\Phi_p(x) 

 と分解でき、つまり高校で習う因数分解の公式から

 \Phi_p(x)=1+x+...+x^{p-1}

 となります。 綺麗ですね。(実はこれはもとの定義からも簡単にわかるのですが)

 さらにアドバンストな話をすると、代数学ではこの話が巡回群の元を、元の位数ごとに分類することにつながってきますし、クンマー理論でも出てきます。

 何はともあれ、「互いに素なものだけ掛ける」という面白い操作で整数係数多項式を作れるというのは、かなり驚異的な結果です。これを機に多項式に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

*1:似たような定理で、「最高次の係数が1である整数係数多項式有理数解をもつなら、それは整数解である」というのをご存知かもしれません。しかしその定理から補題1は導けません。その定理は、条件を満たす多項式1次の因数が整数係数であることしか述べていないためです。例えば、x^4-4=(x^2- 2)(x^2+ 2)には適用できません